吉川晃司「変わらないでいるほうがきっと難しい。だからこそ『変わってたまるか』と思う」 見得を切り続けた摩擦の多い人生 - 朝日新聞社
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多くの人が憧れる「イケメン」と呼ばれる俳優たち。彼らはなぜ「かっこいい」のか。その演技論や仕事への向き合い方から、ルックスだけに由来しない「かっこよさ」について考えたい――。
吉川晃司は、ロックミュージシャンとしてはもちろん、俳優としても存在感を示し続けている。近年ではNHK大河ドラマや仮面ライダー役などで人気を博してきた。
世代や性別を問わず、多くの人から憧れられる吉川にとって、「かっこよさ」とは何か。「賢い生き方をしたいとは思わない。自分の言いたいこと、言うべきことを、エンターテインメントの世界で表現し続けていく。それはずっと変わらない」と語る、その芯にあるものとは――。
ほかの人とは、違う道を行きたがる
――ドラマ『探偵・由利麟太郎』で共演されている志尊淳さんやどんぐりさん、田辺誠一さんら共演者の方々がコメントで「永遠のアニキ」「まさか吉川さんと共演できるとは」「存在自体がかっこいい」「ついていきたい」と口々に憧れを表明されています。吉川さんはそのように憧れられることが多いと思いますが、どのように受け止めていますか?
吉川 自分ではよく分からなくて、全部ウソだろうと思っているんです(笑)。だって昔はそんなふうに言われたことがほとんどなかったですからね。だから、別に気を遣ったりせずに、「感じたままを言ってくれて良いよ」って思ったりするんですけど(笑)。
もう少し真面目に言うと……そうやって褒めていただけること自体はありがたいし、身が引き締まる思いですね。これからも精進しなければ、という励みになります。
――吉川さんが初めて登場されたときのことを、鮮烈に覚えています。自身の楽曲が主演映画の主題歌に起用されるかたちで、アーティストと俳優の同時デビューを果たしました。こういうケースは当時あまり例をみなかったと思いますし、人気の度合いで言うと、アイドルにも匹敵するものがあったと思います。当時は、それをどう感じていましたか?
吉川 デビュー当時の売り出され方については、自分でも「どこに連れて行かれるんだろう?」と思っていましたよ(笑)。「ドナドナ」の歌に出てくる子牛のような……。そもそも最初に映画で主役をやることになったときも、こっちは役者をやるつもりなんてなかったんです。だから事務所の社長だった渡辺晋さんにも「どういうことですか?」「どうなってるんですか?」と、直接聞いたのを覚えています。そうしたら、社長は「大丈夫だから」「信じて、任せておきなさい」と。
忙しくしている中で、あっという間に時間が過ぎていきましたけど、どこかで客観的な視点は持ち続けていたと思います。だって、広島の田舎で、田んぼのあぜ道を通って高校へ通っていた人間が、たった1年後に「都会的なイメージ」とか言われてるんですよ。おかしな話ですよね(笑)。僕は昔から流されるのが嫌いですから、「東京」とか「都会」とは一定の距離をとっておこうと、常に思っていました。「このままだとマズいぞ、良くないぞ」と。
――確かに、そういう流されないための「あがき」のようなものを見ていても感じましたし、そこが魅力でもあったと思います。そうして10代後半でデビューして、もう30年以上のキャリアになります。ご自分の中で何か大きく変化するきっかけとなった出来事はありましたか?
吉川 いちばん大きな転機は、自分で事務所を立ち上げたとき。それまで、ずっと突っ張って生きてきたので、誰にも相談できなくて。それなら、歴史上の人物の考えや行動に学ぼうと思い、たくさんの書物を読みました。日本の歴史書も読みましたが、突き詰めるとすべて中国史に行き着くことが分かってきたので、『三国志』や『水滸伝』などには特にハマって、そこからいろいろなことを学びましたね。
――一方で、この間、芸能活動をする人に求められるものは変わってきたと思います。例えば、2000年代はテレビの歌番組でのトークが重要になってきたり。吉川さんは、それに順応するというスタイルではないと思いますが、そうした変化をどうとらえていましたか?
吉川 僕がトーク番組のようなものにほとんど出なかったり、ツイッターのようなSNSをやらないのは、きっと自分がとんでもないことを言ってしまうからです。大炎上どころの話じゃないですよ(笑)。それが分かっているから出ないだけです。逆に言えば、そういう自覚はきちんとある(笑)。自分はともかく、周囲にまで迷惑がかかるのは本意じゃないですから。最初から自粛しているということですね。
たぶん、周りが楽しい話をしていても、一気にみんなが凍りつくようなことを言ったりするんです。「空気を読む」という言葉がよく使われていますけど、僕はそんなもの、まったく読む気がないですから(笑)。
――去年のツアーでシンバルキックを何度もされていて、最後はへとへとになりながらも成功させていたのが印象的でした。それを見てすごく心強い気持ちになったのですが、シンバルキックを今もやり続けていることにどんな思いがあるんでしょうか。
吉川 ロックミュージシャンとして、ライブを見に来てくれるファンのみなさんには、常に最大限、最高の状態のパフォーマンスをお見せして、喜んでもらいたい。それが、すべてですね。だから、そのために必要なトレーニング、それは身体的なものだけじゃなく、もちろんボイストレーニングも含めて、自分としては最低限のことを日々やっているつもりです。年齢を重ねていく中で、スタミナや筋力などを維持するために費やす時間はどうしても長くなっていますが、それは仕方ない。やるべきことを地道に続けていくしかないんですよ。
――吉川さんにとって「かっこよさ」とは何か、この30年あまりの活動の中で考え方が変わった部分はありますか?
吉川 僕はずっと、基本的なものの考え方は子どものころから変わらないんです。もちろんいろいろなことを学んでいく中で、良いと思ったことは採り入れるようにしていますけど、根幹の考え方は変わっていないし、今後も変わらずにいるということが大事だと思っています。というのも、この世の中では、きっと変わらないことのほうが難しいんですよ。世間とか社会のほうから「変わりなさい」と迫ってくるから、それに流されて、みんな順応していくんでしょうけど、僕はひねくれていますから(笑)。余計に「変わってたまるか」という思いが強くなるんですね。
――ご自身の中でいちばん変わらない部分とは、どんなところですか?
吉川 ほかの人とは、違う道を行きたがる。ただ、そういう道を選ぶ以上は誰にも言い訳ができないし、人に頼るわけにもいきませんからね。とことん見得を切り、傾(かぶ)いて生きてきた結果が、摩擦の多い人生です(笑)。若いころよりはいくぶん「戦い方」を知ったというか、多少の「知恵」はついたんだろうけど、だからと言って、賢い生き方をしたいとは思わない。自分の言いたいこと、言うべきことを、エンターテインメントの世界で表現し続けていく。それは今後も、ずっと変わらないと思います。
――変化を余儀なくされる場面も多い中で、それにあらがう姿が「かっこいい」と憧れられるゆえんなのかもしれません。
吉川 身近なところでいえば、変わらないほうが難しいという点では体形なんかもそうですね。今回のコロナ禍で、100日以上も泳げなかったのは参りました。人生の中で、これだけ長い期間にわたって泳げなかったことも、あまりないんです。そのせいで筋肉が落ちてしまって、シルエットにも影響が出ました。由利麟太郎の衣装も、いま着たらサイズが合わないんじゃないかな?
でも、僕はある意味、いまの状況を学生時代の強化合宿のようなものだと捉えています。まだ、世界中の人が、この危機をどう乗り越えていけば良いのか分かっていないわけですから、そこには最大限の注意を払いつつも、マイナスにばかり考えないで、いまできることを地道にやっていくしかない。先のことは、もっといろいろなことが分かってきてから考えるしかないですし。この期間を使って、自分を見つめ直し、レベルを上げていこうと思っています。それで、またみなさんの前に現れるときには、よりパワーアップした吉川晃司をお見せしたいですね。
(構成/西森路代)
プロフィール
吉川晃司(きっかわ・こうじ)
1965年8月18日生まれ。広島県出身。84年、映画『すかんぴんウォーク』と、その主題歌「モニカ」でデビュー。88年にはギタリスト布袋寅泰とのユニット COMPLEXを結成。その後は作詞、作曲、プロデュースを自ら手がけ、ソロアーティストとして活動。俳優としてもNHK大河ドラマや『下町ロケット』、映画『るろうに剣心』など多くの作品に出演している。
作品情報
ドラマ『探偵・由利麟太郎』
原作:横溝正史 出演:吉川晃司、志尊淳、田辺誠一ほか カンテレ・フジテレビにて毎週火曜21:00放送中(5週連続)
京都に暮らし、犯罪心理学者として活躍する由利麟太郎(吉川晃司)。かつて警視庁で捜査一課長をつとめた過去を持ち、現在も旧友である等々力警部(田辺誠一)から依頼を受けて警察の捜査に協力している。由利を敬愛するミステリー作家志望の青年・三津木俊助(志尊淳)を助手に、難事件の数々に挑んでいく。7月7日、7月14日放送の最終章は、シリーズで最も人気がある『蝶々殺人事件』が原作。高岡早紀、大鶴義丹、鈴木一真、吉谷彩子らがゲスト出演。ドラマのメインテーマ・エンディングテーマも吉川晃司が手がける(「Brave Arrow」「焚き火」共にワーナーミュージック・ジャパン)
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