「心愛が暴れたから」父が“懺悔”する“虐待” - テレビ朝日

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 千葉県野田市で小学4年生だった栗原心愛さんが死亡した事件の裁判。3月5日に行われた第8回公判では、前日に引き続き父親の勇一郎被告(42)への質問が行われた。事件を振り返り、また心愛さんとの思い出をまじえ、涙ながらに語り続けた勇一郎被告。自分のやっていたことは「虐待」だと認める一方、これまで数々の証人が話してきた具体的な行為については否定を繰り返した。勇一郎被告が語る“事実”とは…。

―「立ってればいいんだろ」

 前日に引き続き弁護側の質問から始まった。心愛さんの母親の証言では、2018年7月ごろから勇一郎被告は心愛さんを廊下に立たせたり、スクワットさせたりしたという。勇一郎被告はこのことについて、心愛さんが夜中に騒いだことがきっかけだと話した。

 弁護人:「立たせた理由は?」
 勇一郎被告:「心愛が夜中に騒ぐことがあったからです」
 弁護人:「あなたはどうしたんですか?」
 勇一郎被告:「私は何もしていなのに、何で騒いでいるの?と聞きました」
 弁護人:「それで心愛さんは?」
 勇一郎被告:「答えはせずに『廊下に立っていればいいんだろ』『屈伸をやります』『駆け足をやります』と言っていました」
 弁護人:「それについてあなたは?」
 勇一郎被告:「『やって下さい』と言いました」

 勇一郎被告は心愛さんが自らやりだしたことだと主張。その後も何度か同じような出来事があり、心愛さんが自分の便を持っている写真についても心愛さんが「撮りたければ撮れば」と言ったと主張した。
 親から叱られた子どもが「立っている」や「屈伸をやる」ということを自ら提案するだろうか。そうだとするならば、心愛さんにはどんな考えがあったのだろうか。それを止めずに、やらせ続けた勇一郎被告はどんな思いだったのか。勇一郎被告は涙を流しながら、心愛さんとのやり取りを淡々と答えていった。

ー心愛が「ストンと落ちた」

 2018年の末。勇一郎被告は心愛さんに顔などに暴行を加え、胸の骨を折るけがをさせたとされている。勇一郎被告は冬休みの宿題をやらないことを注意したところ、心愛さんがふてくされて暴れ始めたと話した。心愛さんを引きずったことは認めたが、顔のあざはもみ合いになった時にできたもので、胸をたたいたり圧迫していないと主張した。
 また、年明けに心愛さんの母親にしたとされる暴行についても否定した。「妻が暴言を吐き、胸倉をつかんできた」と話し、母親が子どもたちを蹴ったりしたため守ろうとしたという。

 弁護人:「2019年1月5日に心愛さんに『責任取れよ、年末年始に戻せよ』などひどいこと言っていますね。なぜですか?」
 勇一郎被告:「…。当時はこの時に(心愛さんの母親)と2人で心愛に対して、年末年始に何もできなかったのは心愛のせいだという話をしているなかで、(心愛さんの母親)の言っていることに同調して心愛にひどいことを言ってしまいました」
 弁護人:「心愛さんの気持ちは考えましたか?」
 勇一郎被告:「考えられませんでした」

 そして、心愛さんが亡くなる3日前。心愛さんの母親の証言では、インフルエンザで仕事を休んでいた勇一郎被告は心愛さんを立たせ続けるなど“壮絶な虐待”を繰り返していたという。勇一郎被告は心愛さんを立たせたことは認めたが、放置したりはせずに寝てしまった心愛さんに毛布を掛けるなどしたという。2日前の夕飯以降の心愛さんの食事については「覚えていない」としたが、母親が食事を与えるのを「止めたことはない」と話した。

 そして、心愛さんが亡くなった1月24日についてはこう説明した。心愛さんは自ら浴室へ行った。ズボンが濡れていたためシャワーを浴びさせることになったが、服を脱げずに手間取る心愛さんにボウルで水を掛けた。2回ほど掛け、心愛さんが服を脱いでシャワーを浴びた後、廊下に立っているよう命じた。だが、母親が証言したその後の行動、つまり、リビングで心愛さんに馬乗りになり、体をそらせるようなプロレス技をかけたことは否定した。
 勇一郎被告の説明では、その後、夕飯を食べ、寝室で休んでいたところ、心愛さんの母親と二女が入ってきたところで目が覚め、心愛さんがお漏らしをした後片付けを一緒にすることになった。そこで心愛さんが暴れ始めたという。

 勇一郎被告:「心愛を落ち着かせようと思い、風呂場に連れて行って最初はボウルで水を掛けようと思いました。廊下から風呂場に心愛を引っ張ったり連れて行こうとしました」
 弁護人:「風呂場に連れて行って?」
 勇一郎被告:「シャワーの水を出して心愛の体に掛けようとしました」
 弁護人:「シャワーは体のどこに?」
 勇一郎被告:「おでこの辺りに掛けました」
 弁護人:「何回?」
 勇一郎被告:「はっきり覚えてないが2、3回」
 弁護人:「心愛ちゃんのシャワーの様子は?」
 勇一郎被告:「…(8秒沈黙)首を振って…首を振って…嫌がっていました」
 弁護人:「それで?」
 勇一郎被告:「(涙声、嗚咽続く)浴室から何度も出ようとしていたのに、私が…手を引っ張ったり…押さえ付けたりして水を掛けようとしていました」
 弁護人:「心愛ちゃん、その後は?」
 勇一郎被告:「目の辺りを拭いていて、バタバタ暴れたりしなくなったので、もうやめようと思い、シャワーの水を止めてシャワー掛けに戻しました」
 弁護人:「その後は?」
 勇一郎被告:「心愛…(嗚咽)私の…私の左の方に座るようにストンと落ちました」
 裁判長:「もう一度、私の左の方に座るようにストンと落ちましたと?」
 勇一郎被告:「はい」(一言一言答えるのにも間が開いて、絞り出しているような声)
 弁護人:「その後は?」
 勇一郎被告:「心愛が…私の…私の…左の方で座るように…ストンと落ちました」
 弁護人:「それを見てどうしたんですか?」
 勇一郎被告:「…慌てて…心愛を抱きかかえて…(心愛さんの母親)を呼び…頬をさすったり揺すったりして…体が冷たかったので温水のシャワーを掛け続けました…(小さい声で泣き声)」

―涙の“懺悔”

 泣き続ける勇一郎被告に弁護士は質問を続けた。

 弁護人:「今の気持ちを聞きます。心愛さんにしてきたことは虐待ですか?」
 勇一郎被告:「…虐待です」
 弁護人:「虐待はいつから始まったんですか?」
 勇一郎被告:「…振り返ってみると…2018年の7月ごろだと思います」
 弁護人:「その前には児童相談所の一時保護や実家に行っていたことがありました。2018年3月〜7月には暴行はなかった?」
 勇一郎被告:「一度もありません(タオルで目元をぬぐう)」
 弁護人:「なぜ7月に虐待を?」
 勇一郎被告:「…当時…(眼鏡を外し、うつむく)心愛に言ったことは最後までやらせようとする気持ちが強く、何か心愛が言ってもやらせようという理由で虐待をしました」
 弁護人:「当時は虐待という認識は?」
 勇一郎被告:「ありませんでした」
 弁護人:「やりすぎだという思いは?」
 勇一郎被告:「…ありました」
 弁護人:「なぜ止められなかったんですか?」
 勇一郎被告:「当時、私自身…やりたくないという気持ちがあったのは本当のことです。どうしても言ったことはやらせないと、という気持ちが強く、やりすぎたという気持ちを止めることができませんでした」
 弁護人:「今はなぜ虐待だと思うのですか?」
 勇一郎被告:「…大事な。大事な自分の娘に…夜中に長い時間立たせたり、苦しみを…やらせる必要は全くありません」

 勇一郎被告は「虐待」を認めた。心愛さんに苦しみを与え続けたことを認めた。そして、なぜ動画を撮ったのかについても話し始めた。

 弁護人:「心愛さんの動画を撮影していますよね?あれは何のためだったんですか?」
 勇一郎被告:「当時、初めはなぜ心愛が大声で騒ぐのか分かりませんでしたので。病院に連れて行こうと考えたことがありました」
 弁護人:「それがどうつながるんですか?」
 勇一郎被告:「もし、状況を知りたいという話があった時に、それを見せようと思ったのが始まりで…騒いでいる時に『カメラを撮るよ』『誰かに見せるよ』というと、ぴたっとやめることがあって。それを続けていたところ、全く心愛にはそういうこと言ってもやめてくれなくなり…結果として画像や動画に残ってしましました」

 弁護人:「本当に心愛ちゃんを大事にしようと思ってたんですか?」
 勇一郎被告:「……(激しく泣きながら)本当に思っていました」
 弁護人:「あなたがこういうことをする理由で、性格で思い当たることありますか?」
 勇一郎被告:「……私は、自分の性格をきっちりやらないと気が済まない性格だと思っています」
 弁護人:「それを他人にも押し付けるんですか?」
 勇一郎被告:「…そのようなことはありません」
 弁護人:「何度も心愛さんにやらせたのはなぜですか?」
 勇一郎被告:「自分の娘だからという理由でやらせました」

 ひたすら泣き続けた勇一郎被告。目の前にいる勇一郎被告を見ても心は動かされなかった。ふと、裁判員や傍聴席を見渡したが、皆、硬い表情で勇一郎被告を見つめていた。

―「事実しか話していません」

 弁護人に代わり検察官の質問が始まると、勇一郎被告は涙を見せなくなった。厳しい質問の連続に答えを探しているようだった。どういうことが「虐待」なのかと問われると…。

 勇一郎被告:「今、当時のこと振り返ってみて、暴れたことで押さえ付けたり、屈伸するからさせたりとか、元々自分の娘に傷付けるようなことが虐待だと考えるからです。理由は関係ありません。私の言ったりしたことが虐待だと思います」
 検察官:「その虐待という部分、責任を心愛さんになすり付けている、そう思わないか?」
 勇一郎被告:「もう一度質問を」
 検察官:「心愛さんが立ってます、屈伸してます、暴れてます。根本の原因を心愛さんにあったと責任を押し付けている」
 勇一郎被告:「私がこの場で述べたことは事実を述べただけで、心愛がこう言ったからこうなったと言ってるわけではないです」
 検察官:「証拠調べ、あなたも見てきましたよね?色んな立場の方が証言した。あなたの話だけが他の人と合わないと思わないか?」
 勇一郎被告:「はい」
 検察官:「はい、というのは自覚している?」
 勇一郎被告:「そのように感じることもあります」
 検察官:「あなたからしてみれば他の人が嘘をついている?」
 勇一郎被告:「そういうことになります」

 自身の発言と、これまでの裁判で明らかになった内容との矛盾をつかれた勇一郎被告。だが、事実を述べているという姿勢は崩さなかった。心愛さんが勇一郎被告の暴力を訴えたアンケートについても「心愛さんが嘘をついている」と改めて主張した。深夜や早朝に撮影した動画についても「心愛さんが暴れた」ため、「病院で見せるため」に撮影したと説明した。その後も検察側の追及は続いた。両目を腫らした心愛さんをなぜ病院に連れて行かなかったのか、なぜあざのある心愛さんを学校に行かせなかったのか。勇一郎被告は一つひとつに表情を変えず、淡々と答えた。

 検察官:「1月24日の話、心愛ちゃんはどうして亡くなったと思う?」
 勇一郎被告:「専門的な話は聞いたことしか分からないが、私のそれまでしていた虐待行為が原因の一つと思っています」
 検察官:「他にあるのか?」
 勇一郎被告:「専門的なこと以外という意味です」
 検察官:「よく分からないが、あなたの頭の中の記憶で1月22日から24日にかけてしたことで、心愛ちゃんは亡くなりますかね?」
 勇一郎被告:「事実ですのでそういうことになります」
 検察官:「専門医は飢餓状態、ストレス、ケトアシドーシスで亡くなったあるいは溺水と説明している」
 勇一郎被告:「はい」
 検察官:「心愛ちゃんが亡くなった真実を話してますか?」
 勇一郎被告:「事実しか話してません」

 これまで証言してきた心愛さんの母親、勇一郎被告の家族、児童相談所の職員は、勇一郎被告が話す“事実”をどんな思いを抱くのだろうか。7日の裁判では、心愛さんが亡くなった経緯について、検察官や裁判員から質問が行われる。

(DV・児童虐待問題取材班)

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