医学の進歩は幸せなのか――医療と社会の未来をブラックユーモアたっぷりに描く7篇『黒医』 | 「レビュー(本・小説)」 - カドブン
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文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
(解説者:吉村 萬壱 / 作家)
昔、私には、ある出版社の仕事でベストセラー小説を狙って頑張っていた時期があった。ターゲットは、圧倒的多数の高齢者層だった。高齢者が喜ぶ小説を書けば絶対にベストセラーになると踏んで一年ほどかかりきりになったのだが、結局
「甘っちょろいドラマには虫酸が走る。温かい家庭、優しい家族、そんなものはあり得ない」(「老人の愉しみ」)
書いては失敗を繰り返していたある日、老人小説の参考になるかもしれないと思って一冊の本を読んでしまったことで、私のベストセラーへの試みは決定的に終わりを告げた。
それが、
老人たちの
それ以来、打ちのめされたという意識から、私は書店や新聞広告などで久坂部羊氏の名前を目にするたびに、医者であるこの作家にはとても
しかし今年、
解説など
「美人は見栄を張って、トイレを我慢するから、しょっちゅう膀胱炎を繰り返すんだ」(「老人の愉しみ」)
たったこれだけの
女性に関する小説の圧巻は、何と言っても「のぞき穴」であろう。私は、初めてストリップ劇場に行った高校時代を思い出さざるを得なかった。女性器とはペニスの欠落したものであり、無か、せいぜい穴か筋のようなものに過ぎないと思っていた私は、目の前のストリッパーの、使い込まれて真っ黒に盛り上がった年季の入ったそれを見て思わず心の中で「違う!」と叫んだものである。しかし我々男は生涯にわたって、どこまでも自分を
「男性が女性器に惹かれ続ける理由は、男性が女性器を見ても観ていないからだ」(「のぞき穴」)
「興味本位で見るときは、人間は見たいものしか見ないものだ」(「のぞき穴」)
そしてこの小説の恐ろしいところは、見たいものとは、人間が欲望するありとあらゆるものに及ぶと気付かされるラストにある。我々は何事につけ見たいものしか見ず、見たくないものは見ていないのではないか。原発事故の汚染水はいつの間にか処理水と言い換えられ、不都合な公文書は
「無脳児はバラ色の夢を見るか?」では、出生前診断でロート症と分かった胎児の声を母親が聞くシーンがある。「うま・れ・たく・ない・の」「ちゅー・ぜつ・して」という胎児の言葉。この、聞きたい声が都合よく聞こえてくる世界とは、もちろん我々の住む世界そのものである。好きな言葉に「いいね」して、嫌な言葉をブロックすることで成り立つSNS世界はその典型であろう。そしてその先に待ち受ける真っ暗闇の展開まで、この作品は容赦なく描き切っている。
『黒医』全体を貫いているのは、この世界から綺麗事を剝ぎ取った後の、徹底したリアリズムである。いじめによる自殺が起きると決まって全校集会が開かれ、校長が判で押したように口にする「命の重さ」「命の大切さ」という言葉。人一人の命の重さは万人の命の重さと釣り合うなどと言われるが、現実にそうなっていないことは誰もが知っている。
「命の重さ。それはみんなの安全が保証され、もめ事やスキャンダルがないときにしか意識されない。だれの口先にも上るけれど、所詮、ただの言葉にすぎない」(「命の重さ」)
たとえば戦時下においては、人の命は虫ケラ以下の扱いを受ける。そして現代社会が一種の戦場であるとするならば、年間二万人が自殺するような状況下で命の重さとは一体何なのだろうか。
ハッピーエンド小説や心洗われる泣ける小説もよいが、
私は基本的に何も信じないようにしている。「愛」や「
我々はないものをあるものとして、あり得ない善人を演じることで何とか自他をごまかしながら社会生活を送っており、一皮めくれば必ず悲劇が顔を出す。
「社会は幻想だ。みんな中身のない殻だけのタマゴを温めているニワトリのようなもんさ」(「不義の子」)
そのような現実を、ブラックなユーモアをまじえた作者独特の冷徹さで描き切った本書は、一読、私が愛してやまないシオランの次の言葉を思い出させる。
「心に何の痛みもないような連中が、安らかに生き安らかに死んでゆくことを何がどうあろうと邪魔してやらねばならぬ」(シオラン『存在の誘惑』)
久坂部羊氏は、常識に安住して居眠りを決め込んでいる古代アテネの市民を揺さぶり起こし、非難することをやめなかったソクラテスさながら、どんな悪政にも慣れてしまい、勝手な幻想にウトウトする我々をチクリと刺す一匹のアブである。
しかしまた我々は、『黒医』を読んで「痛っ」と表情をゆがめると同時に、あたかも足裏マッサージのように「痛気持ちいい」と感じ、あっという間にこれに慣れ親しみ、
従って久坂部羊氏の闘いは、いつ終わるとも知れず延々と続くのである。
一読者としての本音を言えば、私はそれが嬉しくて仕方がない。
▼久坂部羊『黒医』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321905000409/
"それを見て" - Google ニュース
March 13, 2020 at 10:00AM
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