楽天グループがメルカリ対抗策「ラクマ公式ショップ」、だが楽天市場と競合の恐れも - 日経ビジネスオンライン

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 楽天グループは2022年4月5日、運営するフリマアプリ「楽天ラクマ」に関する事業戦略を発表。個人の出品者だけでなく、新たに130社以上のリユース事業者が出店する「ラクマ公式ショップ」などを展開して事業を強化する方針を打ち出した。「楽天市場」との競合を避けつつフリマアプリ最大手の「メルカリ」との差異化を図り、利用の拡大につなげることができるだろうか。

「ラクマ公式ショップ」で企業を取り込む

 最大手の「メルカリ」の印象が強いフリマアプリ市場だが、それを追うサービスの1つに楽天ラクマがある。楽天ラクマは楽天グループが2014年に立ち上げたフリマアプリ「ラクマ」と、もともとFablicが運営していて2016年に楽天グループが買収したフリマアプリの元祖「フリル」を統合したサービスだ。

 その楽天ラクマは現在、楽天グループのEコマース事業において二次流通を担う主力サービスとなっているが、この分野ではやはりメルカリの存在が大きいだけに一層の事業強化が求められていたのは確かだろう。そうした背景の中、楽天グループは2022年4月5日、楽天ラクマに関する新たな事業戦略の発表会を実施した。

 そこで打ち出されたのは、一言で表すならばビジネス領域の拡大となるだろう。楽天ラクマはこれまで、個人間取引(C2C)による二次流通プラットフォームとして事業を展開しており、出品者も購入者も個人客だった。だが今回打ち出した戦略では、楽天ラクマの出品者として個人だけでなく、企業も取り込んでフリマアプリの枠を超えたプラットフォームにすることを目指すという。

 戦略の軸となるのが、企業が楽天ラクマに公式に出店できる「ラクマ公式ショップ」である。その最初の取り組みとして打ち出したのは、主に二次流通を扱うリユース事業者に向けた「リユース」店舗で、同日に公表された内容によると130以上のリユース事業者が参加するとしている。

楽天グループの「楽天ラクマ」は2022年4月5日より、企業が楽天ラクマに店舗を持つことができる「ラクマ公式ショップ」などを本格展開すると発表した。写真は同日に実施された「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

楽天グループの「楽天ラクマ」は2022年4月5日より、企業が楽天ラクマに店舗を持つことができる「ラクマ公式ショップ」などを本格展開すると発表した。写真は同日に実施された「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

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 ラクマ公式ショップにはほかにも、海外からの並行輸入品を扱う事業者などが出品できる「海外輸入」があり、40以上の企業が出店するとしている。今後はアパレルブランドなどがアウトレット品などを販売する店舗を持つ「ブランド公式(アウトレット・SALE)」の展開も進めるとしている。

 加えて楽天ラクマでは、食品分野の事業者が出店できる「産直・こだわり食品」というサービスも展開するとのこと。こちらはラクマ公式ショップとはやや毛色が違っており、食品に関連する生産者や加工業者などに対し、楽天ラクマに手軽に出店できる仕組みを提供するものとなるようだ。

「メルカリShops」とは異なる狙い

 二次流通プラットフォーム内に企業などがショップを展開しやすくする仕組みといえば、メルカリのグループ企業であるソウゾウが運営する「メルカリShops」が思い起こされる。メルカリShopsは企業や個人がメルカリ内に手軽にショップを構えて商品を販売できる仕組みで、2021年10月より本格的にサービスを開始しているものだ。

 だが楽天ラクマが今回の取り組みで目指す方向性は、メルカリShopsとは異なるものであるようだ。メルカリShopsは個人事業主や小規模の企業がEコマースを展開しやすくすることに主軸を置いたサービスで、狙っているところは「Shopify」「BASE」などの小規模事業者向けEコマースプラットフォームに近い。

 これに対して楽天グループがラクマ公式ショップなどでターゲットとしているのは、二次流通、あるいはそれに近い事業を展開する大手企業であるようだ。実際ラクマ公式ショップに参画する企業として説明会に登壇したのは、宅配買い取りの「ブランディア」などを運営するデファクトスタンダードや、ブランド買い取り専門店「なんぼや」やセレクトショップ「ALLU」を運営するバリュエンスジャパンなど、リユース業界では規模の大きな企業であった。

ラクマ公式ショップに参画する企業は、「RAGTAG」を展開するティンパンアレイなど、大手のリユース関連企業が多く名を連ねている。写真は2022年4月5日の「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

ラクマ公式ショップに参画する企業は、「RAGTAG」を展開するティンパンアレイなど、大手のリユース関連企業が多く名を連ねている。写真は2022年4月5日の「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

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 また参画する各社の説明によると、ラクマ公式ショップには各社のシステムと連係して自動出品する仕組みが用意されているなど、規模の大きな事業者に向けた仕組みがあらかじめ整備されている印象を受ける。こうした点からも、楽天ラクマの今回の施策が、メルカリShopsとは異なる方向を目指したものであることが分かる。

 では一体なぜ、楽天グループは楽天ラクマに二次流通大手を取り込もうとしているのだろうか。楽天グループの上級執行役員 新サービス事業 バイスプレジデントの松村亮氏は、その理由として二次流通の市場はC2Cだけでなく企業対個人取引(B2C)、つまり企業が個人向けに展開する市場の規模も大きいことから、そちらも取り込んで顧客接点を拡大していく狙いがあるという。

 リユース事業者などが販売する二次流通品は、企業による検品が入ることから品質がある程度確保されているので安心感が高い。商品の幅は広いが質にムラがある個人出品の二次流通品と比べ、消費者に一定のメリットを提供できることから、企業を取り込むことがサービスの利用拡大につながる可能性がある。

楽天ラクマはラクマ公式ショップなどの取り組みで、従来のC2Cだけでなく、B2Cの二次流通も取り込み顧客接点を拡大する狙いがあるという。写真は2022年4月5日の「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

楽天ラクマはラクマ公式ショップなどの取り組みで、従来のC2Cだけでなく、B2Cの二次流通も取り込み顧客接点を拡大する狙いがあるという。写真は2022年4月5日の「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

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「楽天市場」とは利用者層で差異化、だが課題も

 そうした企業ならではのメリットを楽天ラクマ内で生かし利用を増やすことで、楽天グループが目指すとしている国内のEコマース流通総額10兆円の実現に貢献したいと松村氏は話している。ただ今回の施策で大手企業の参加を募ったことにより、同じグループ内で展開する楽天市場と競合する部分が出てきた点は気になる。

 実は大手のリユース事業者はEコマースプラットフォームでリユース品を販売していることも多く、ラクマ公式ショップとして参加する企業のいくつかは既に楽天市場内にも店舗を構えている。それだけに、同じ楽天グループの2つのプラットフォームに出店することが企業にとってデメリットにならないか、またサービス間で顧客を奪い合うことにならないかといった懸念も浮かんでくる。

 だが松村氏によると、楽天市場と楽天ラクマは利用者の層に大きな違いがあるとのこと。楽天市場が取り扱うのは一次流通が主で、その利用者層は30〜40代が多いという。一方で楽天ラクマは二次流通が主体で、利用者層は10〜30代と若い層が中心だとしている。このため、楽天市場と楽天ラクマは競合というよりも補完関係にあるという認識のようだ。

30〜40代の利用が多い「楽天市場」に対し、楽天ラクマは10〜30代の若い世代の利用が多いので、同じショップがそれぞれに出店しても補完し合えると見ているようだ。写真は2022年4月5日の「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

30〜40代の利用が多い「楽天市場」に対し、楽天ラクマは10〜30代の若い世代の利用が多いので、同じショップがそれぞれに出店しても補完し合えると見ているようだ。写真は2022年4月5日の「楽天ラクマ」事業戦略発表会より(筆者撮影)

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 楽天ラクマに参加する事業者の側からも、出店するメリットとして利用者層の若さを挙げる声が多かった。リユース事業者の実店舗の利用者は30代以上が多いことから、若い世代にも販路を広げられる楽天ラクマへの出店には大きなメリットがあると感じているようだ。

 ただもう1つ懸念点がある。ラクマ公式ショップなどに参加する事業者の増加は、楽天ラクマの利用者に必ずしもポジティブに働くとは限らない可能性があることだ。なぜなら、もし楽天ラクマ内で企業による出品が主流を占めるようになれば、個人出品が多いからこそ実現している多様で意外性のある商品群、そして利用者同士がコミュニケーションしながら売買する仕組みなど、フリマアプリならではの魅力が損なわれ逆にユーザー離れにつながってしまうと考えられるからだ。

 企業の商品を取り込むことに一定のメリットはあるものの、そこに傾倒し過ぎてしまうとC2Cだからこそ実現しているフリマアプリの特性に魅力を感じている利用者にマイナスの印象を与えかねない。それだけに楽天ラクマが企業の力を生かして成長につなげるには、企業と個人による出品のバランスの取り方が重要になってくるといえそうだ。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。

[日経クロステック 2022年4月18日掲載]情報は掲載時点のものです。

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