「目を離さない」では不十分 子どもの食べ物による窒息事故 防ぐためにできること(坂本昌彦) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

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 ブドウで窒息し、亡くなってしまったお子さんの悲しいニュースが飛び込んできました。

【速報】ぶどう詰まらせ 4歳男児死亡、幼稚園の給食で 窒息か(2020年9月8日 TBS NEWS)

 近くに大人がいて、食事中に窒息するなんて、と思う方も多いかも知れません。

しかしブドウによる窒息は以前から報告されており、小児科医を始め医療従事者の間では珍しいことではありません。

 実は「食べ物」が原因の窒息事故は決して珍しくないのです。

アメリカ小児科学会によると、2001年の報告では致命的でなかった窒息の17,000名のうち半数以上(59%)は食べものが関与する窒息でした(※1)。

 我が国でも、消費者庁の報告によると平成22年から26年までの5年間で14歳以下の窒息死事故は623件ありましたが、このうち食べ物で窒息して亡くなる割合は17%(103件)でした。亡くなる原因としても決して少なくありません(※2)。

 では、このような食べ物による窒息事故を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。

 先日の悲しい事件を契機に、今回は子どもの食べ物による窒息を防ぐために知っておきたいことと、起きてしまったときの対応方法について考えてみたいと思います。

5歳未満ではリスクが高い

 先ほどの消費者庁報告によると食品による窒息死事故103件のうち85件が5歳未満でした。日本小児科学会の傷害速報(子どもの事故に関する事例を集めて報告するページ)にも、5歳未満のリスクが高いとの記載がみられます(※3)。

 いっぽうで、10歳以上で友達と早食い競争をしてパンを詰まらせてしまい亡くなった例もあります。窒息は何歳でも起こりうることも忘れないでほしいと思います。

窒息の原因となりやすい食べ物とは?

 一般に子どもの口に入る大きさの目安はトイレットペーパーの芯の大きさ、またはおとなの親指と人差し指で作った丸を通るものの大きさとされています。

 中でも特に窒息しやすいものの形や性質として「弾力があるもの、つるっとしたもの、丸いもの、粘着性が高いもの、固いもの」といった特徴があげられます。

 丸いものの例として、プチトマト、ぶどう、サクランボなどがあります。これらは弾力もあり、つるっとしてもいるので、非常に窒息のリスクが高いです。ほかにもピーナッツ等豆類、ラムネや飴などがあります。粘着性の高い食材としては餅、白玉団子があります。これらはつるつるしているため噛む前に誤えんしてしまうのですね。

 ちなみに米国の研究では、米国とカナダの26カ所の小児病院の1989~1998年のデータをまとめ、死亡リスクの高い食材としてホットドッグ、キャンディー、ブドウ、肉、ピーナッツ、にんじん、リンゴ、ポップコーン,パンの10種類の食材をあげています(※4)。このなかでもっとも死亡者が多いのは、ホットドッグでした。ホットドッグはちょうど気道を塞ぐ大きさですっぽりと蓋をしてしまうためのようです。

子どもは噛む力が弱く咳もうまく出せない

 子どもはどうしてものを詰まらせやすいのでしょうか。まず、気道の直径が成人よりも小さい事が挙げられます。そのため、小さな異物でも詰まってしまいやすいのです。咳の反射もまだ弱く、詰まったものを外に排出しにくいのです。

 また犬歯や臼歯が生えそろっていないため噛む力が弱い点が挙げられます。例えば臼歯は1歳半になるまで生えてきません。生えてきても、十分に咀嚼する能力が完成するまでには時間がかかり、幼児期は不安定だとされています(※1)。

 口に食べ物を入れたまま話をする、走り回る、早食い等も子どもはやってしまいがちで、これも窒息のリスクとなります(※3)。

防ぐためには具体的な対策案を

 多くの事故は親がそばについて食事をしている中で発生しています。「目を離さないで」「気をつけて」では事故を減らせません。リスクのある食べ物を紹介するとともに、具体的な対策を紹介する必要があります。厚生労働省は保育施設などにおける事故予防ガイドライン(※5)を作成していますが、これが一般の家庭でも参考になりますのでご紹介します。

誤えんや窒息に繋がりやすい食べ物の調理について

保育施設などにおける事故予防ガイドライン(※5)より一部改変
保育施設などにおける事故予防ガイドライン(※5)より一部改変

その他、食事を与えるときの注意点としては、

正しく座っているか確認する、食事中に驚かせない、兄弟がいる場合には、上の子が赤ちゃんの口に食べ物を入れたりしないように教える、等も大切です(※6)。

食育は事故予防にも有効

 乳幼児期から学童期は食べ方を育てる時期で、食育が最近注目されています。実はこの食育は、事故防止という意味でも大切です。

・食べることに集中する

・水分を摂ってのどを潤してから食べる

・遊びながら食べない。走り回らない

・口の中に食べ物があるときはしゃべらない

・よく噛んで食べる

などは、まさに誤えんを防ぐために有効なことばかりです。

 いっぽうで「食材の制限はすべきではなく、教えていくことが大切だ」という意見もありますが、これについては少し懸念しています。先に述べたように、噛む力が弱い、咳反射が弱いなど、乳幼児は体のしくみとしてまだ未発達な段階であり、子どもの教育/指導だけでカバーすることは限界があるためです。よく噛むことは大事ですが、よく噛むように教えていれば大丈夫、ではありません。 

子どもがものを詰まらせた!まずは119番、そして応急処置を

 食事中に急に顔色が悪くなり、苦しそうな様子を見せたり声が出せなくなった場合には、窒息の可能性があります。窒息の場合、蘇生のチャンスは最大9分とされ(※7)、すぐに処置が必要です。

院外で窒息した場合には、呼吸が止まっただけの状態であれば蘇生率は50%を超えますが、心肺停止の場合の蘇生率は非常に低くなるため、心停止に陥る前に詰まった食べ物を除去する必要があります(※8)。

 そこで誤嚥が疑われた場合の応急処置を振り返っておきましょう。

乳児では保護者の片腕にうつ伏せに載せ、顔を支えながら背中の真ん中を手で繰り返し叩きます。少し大きなお子さんの場合、保護者が立て膝になり、ふとももでお子さんのみぞおちを圧迫するようにして、背中の真ん中を手のひらで叩きます(背部叩打法)。その後仰向けにして、片手で乳児の体を支えながら、もしくは膝にお子さんを載せながら、心肺蘇生と同じ方法で胸部を圧迫します(胸部突き上げ法)。背部叩打法と胸部突き上げ法のセットを各5~6回で1サイクルとし、これを繰り返します。年長児は後ろから両腕を回してみぞおちの下で手を組み、お腹を上方に圧迫します(ハイムリッヒ法)。

慌てて口の中に指を入れて取り出そうとすると窒息状態が悪化するためやってはいけません。

 これら一連の流れ(救急要請~応急処置まで)は政府インターネットテレビ「窒息事故から子供を守る」で分かりやすくまとめられています。8分間の動画で、PCやスマホで視聴できます。お子様の万が一に対応できるよう、これを機に一度ご覧になっていただければと思います。いざというときにはパニックになってしまうものですが、何も知らないよりも知っていた方が、救急隊員からの指示も理解しやすいと思います。

 昨日は9月9日、救急の日でした。これから1週間は救急医療の日です。

その救急医療の中でも一刻を争う窒息についてまとめました。起きてしまうと亡くなったり後遺症を残す可能性が高い悲しい事故となります。リスクを知り、予防することがもっとも大切です。記事が少しでもお役に立てればと思います。

参考文献:

(※1) American Academy of Pediatrics: Prevention of Choking Among Children. Pediatrics March 2010, 125 (3) 601-607

(※2) 消費者庁:食品による子どもの窒息事故にご注意ください.(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/170315kouhyou_1.pdf)

(※3) 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会:Injury alert No.49.ブドウの誤嚥による窒息(https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0049.pdf)

(※4) Altkorn R, Chen X, Milkovich S, et al. Fatal and non-fatal food injuries among children (aged 0-14 years). Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2008;72(7):1041-1046.

(※5) 厚生労働省:教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン

(https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/meeting/kyouiku_hoiku/pdf/guideline1.pdf)

(※6) 北澤克彦:保護者への説明マニュアル(誤飲/誤嚥).小児科診療11,1699-1704,2014

(※7) 日本小児救急医学会・日本小児外科学会監修:小児救急のストラテジー.2012,へるす出版)

(※8) 馬場美年子、一杉正仁、武原格 他:小児の食物誤嚥による窒息事故死の現状と予防策について.日職災医誌58,276-282,2010

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