【連載:きっと誰も好きじゃない。】最終回-オリンピックのためにTVを買った読書好きな彼 - Fashionsnap.com

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Image by: ©Miyu TAKAKI

 死ぬほど人を好きになったり愛したりなんてできないのかもしれない。そんな諦めの気持ちと、それでもやっぱりどこか諦めきれない自分。そこで私は、真の愛を掴むべく出会い系アプリを使ってみようと決意した。「きっと誰も好きじゃない」のかもしれないけれど。時間を共にし、話したことや出来事を、撮ってもらった私自身の写真とあわせて綴る出会い系アプリで知り合った男性とのおはなし。最終回となる11人目は、新宿西口で会った28歳のKさん。

(文・写真:高木美佑

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金曜日@新宿西口 28歳 Kさん

オーストラリアから日本へ帰ってきてしばらくが経った。
これといって良い出会いもなく、素敵だなと思う人がいても大抵は既婚者であったり恋人がいたりする。

その頃、身内の不倫が発覚し離婚寸前の状態で、世間でも不倫によるゴシップが盛んな時だった。

浮気をしない人なんて本当にいるのだろうかという不信感や、ただ単に自分の理想が高いだけなのかもしれないけれど、本当に心から好きになれる人なんてもう現れないだろうという諦めの気持ちは強くなる。

その一方で、いつかは結婚をして子どもが欲しいと思うし、どちらも人生で一度は経験してみたいと思う、諦めきれない自分もいた。時間だけはあったので、登録したままずっとログインしていなかった出会い系アプリをまた開いてみた。

数日後、彼からメッセージが届いた。
私はプロフィールにコーヒーが好きだと書いてある。

それを見て彼は「メッセージのやりとりからはじめて、仲良くなったら美味しい喫茶店などに一緒に行けたらいいなと思います」、とメッセージを送ってきてくれた。

彼のプロフィールに顔写真は載っていなかったけれど、誠実そうな文章で私と同い歳。

また、いきなり会おうともせず「メッセージのやりとりから」という一文があることにも好感がもてた。

東京都の緊急事態宣言が解除され落ち着いたら、彼のおすすめの喫茶店へ行こう、と話していた。

具体的な日程を決め始めていた頃、「会う前に顔写真が見たい」というと、彼が送ってきたのは目にだけモザイクをかけた写真。

雰囲気はとても爽やかで、若手俳優のような感じ。

見た目にコンプレックスがありそうにも無く、どうしてそこまで顔を見せたがらないのか不思議に思ったけれど、彼の職業欄は「法律関係」と書いてあり、恐らくインターネット上に顔出しをすることが少し危険なのだろうと思った。

彼は、「自分が先に待ち合わせ場所に着くようにするので、遠目から確認した上で会うか決めてください」と言った。

そんなことを言われたのは初めてだった。
仮にそれで待ち合わせ場所まで行き、ドタキャンをする人なんて居るのだろうか?

仮日程を決めると、「駅の近くのカフェを予約しておきました」と連絡がきた。

休日の新宿は混んでいてお店に入れないこともあるので、ちゃんとした人だなと思い、また、お店を決めてもらい予約までしてくれたことに申し訳なく思った。

ただ、少しの可能性として、もしも彼が業者かなにかで、例えばぼったくりのお店などとグルで、すごく高額な金額を請求されたりしたらどうしようと、疑いの気持ちを抱いてしまったことも事実だった。

会ってみて少しでも怪しそうな人だったらすぐに帰ろうと思ったし、お守りがわりに防犯ブザーもカバンの中に忍ばせていた。

約束の前日に、彼から連絡があった。
彼はいつもメッセージの冒頭に「こんにちは」だとか「こんばんは」などの挨拶があり、礼儀正しい人だ。

喫茶店でお茶をしようという約束だったけれど、「待ち合わせ時間を1時間早めてランチもご一緒しませんか?」とのこと。

コーヒーを飲むだけだと手持ち無沙汰になってしまい、またコーヒーをすぐに飲み終わってしまったり、別に食べたくもないケーキを頼んでちびちびと食べたり、ストローのゴミや紙ナプキンで折り紙をしたりする羽目になってしまう。

食事をしながらであればうまく時間を共有できるので、彼の提案に賛成した。

当日の朝、彼からメッセージが届いていた。

待ち合わせ場所で私が彼を見つける為の服装の連絡で、「ジーパンに紺色のシャツを着ています」と書いてあった。

予約をしなければならないほどのお店と考えるとどこか高級なお店なのかと思い、何を着ていったらいいのかわからず困っていたけれど、彼がジーパンを履いているというので、カジュアルな格好で良いのだと安心した。

待ち合わせ場所は駅の地下道。
約束の時間ぴったりに到着すると、彼は既に待っていた。

普段、平日の朝や夕方ならサラリーマンなどたくさんの人が行き交う場所だけれど、休日で人通りは少なく、そこで待って居る人は1人しかいなかった為、それがすぐに彼だとわかった。

第一印象はイメージ通りの真面目そうな男性。

---「はじめまして」
---「お待たせしてすみません」
---「迷いませんでしたか?」などと、軽く挨拶をした。

そのあと、彼のオススメだというカフェの方へ、地下道を歩いた。

地上へ上がる為に少し長めの階段があり、そこで彼は「階段を登らせてすみません」と言った。

階段程度で怒る訳もなく、全く気にもしなかったけれど、女性がヒールを履いていたりすることを考慮して気遣ってくれたのだろう。

お店に到着して席につこうとする前、また段差があり、「気をつけて」と口で言われてはないものの、彼が先を歩き私の足元をチラっと見て、つまづかないか確認しているようだった。

そんな細かなところまで気を遣ってくれ、私はどこか良いところのお嬢さんや芸能人にでもなったかのような気持ちになった。

お冷を飲む為に、初めてマスクを外した。

初対面の人と会ってマスクを外し、顔を見せる瞬間がこんなにも緊張するものかと驚いた。

彼も同様にマスクを外したが、心なしか彼も少し緊張しているように見えた。

コロナによる影響などの話をした。
自粛期間中は、近所の土手で本を読んでばかりいたらしい。

どんな本を読むのかと聞くと、ジャンルはなんでもよくて、SFでも恋愛でも人間ドラマでも、また小説でも自伝のようなものでも、全部好きだと言っていた。

話題になったり受賞した作品は一通りチェックする。
そして絶対に電子書籍ではなく紙。

本当に本が好きなんだなぁと思った。

オリンピックを見る為に、新しく大きいテレビを買ったらしい。

それに、数十万円分のチケットも応募したけれど、全部外れてしまったと話した。

アンラッキーのように見えて、結果的には当選していたとしてもチケットを払い戻す手間が省けて、ラッキーなのかもしれない。

ランチセットのサラダも、メインのパスタも、私が先に食べ終えてしまった。

それに気づき恥ずかしさと申し訳のない気持ちで、彼に謝った。

すると彼も「遅くてすみません。職場でも女性と食事をするとき、僕の方がいつも食べ終わるのが遅いんです」と笑った。

もしかすると彼にばかり喋らせて、私は黙々と食べていたのかと反省をした。

彼の話し方はとても丁寧で、育ちの良さがあらわれている。

初対面ということで私は緊張しながらも、ついふとした瞬間に「めちゃめちゃ」だとか「〜みたいな感じ」のような、敬語ではない軽いテンションの言葉を使ってしまう自分を恥じた。

少し気を抜くと足を組んでしまうし、リラックスしている故だと言えばそうかもしれないが、マナーの悪い人だと思われていなかったか心配に思う。

隣の隣のテーブルに、カップルが座っていた。

その1人が突然紙袋を取り出して、もう1人にプレゼントを渡した。

中身はTシャツのようで、「好きそうだなと思って、似合いそうだから買ったんだ」と少し照れながら話していて、それがとても素敵だと思った。

日常生活の中で、何か物をみたときに、恋人と一緒にいないときでも「恋人はこういうもの好きかな」とその存在を思い出し、ちょっとしたプレゼントを買うなんて尊い瞬間だ。

そしてそんな相手がいることはもっと尊い。

彼の肩越しに見える席に、2人組の男女がいた。

2人とも手をテーブルの上ではなく膝に乗せ、少しかしこまったような雰囲気だった。

時折笑顔が見えたので、仲が悪い訳はなさそうだった。

あの2人も、堅苦しいお見合いとまではいかなくとも、もしかしたら私たちのように何かのきっかけで知り合ったばかりの様な関係かもしれない。

彼の習い事や、学生時代の部活動の話、兄弟の話をし、食後のコーヒーを飲み終えた。

「そろそろ出ようか」と話し、お店を後にする。
新しくできた西口と東口を繋ぐ通路を歩いてみよう、と話した。

歩きながら、お店の感想とお礼を告げた。

お店は静かでとても落ち着いていて、私もすっかりそのお店を気に入っていた。

彼はたまにそのお店に1人で行き、テラス席でコーヒーを飲みながら本を読んだりするのが好きだと教えてくれた。

別れ際、私は彼にカメラを渡さなかった。

今までずっと、出会い系アプリで知り合った男性と会ったときには最後、相手にカメラを渡し、私自身の写真を撮ってもらっていた。

それは、男性と一緒に時間を過ごした時、私が一体どんな表情をしているのか知りたいからであった。

けれど、私はこの時、もう彼に写真を撮ってもらう必要はないと思った。

にこやかで、楽しそうな表情をしているのが見なくとも既にわかったからだ。

わざわざ写真を撮り、確認する必要はなくなった。

「また連絡しますね」と言って、彼を見送った。

企画協力:Tomo Kosuga

高木美佑/Miyu TAKAKI
写真家。1991年生まれ、東京都在住。
恋人と観たい映画:バック・トゥ・ザ・フューチャー(彼の解説付き)
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インタビュー記事:若き写真家の肖像 -高木美佑-

きっと誰も好きじゃない。
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2人目-芸術家になりたかった渋谷の彼
3人目-かわいい絵文字を使う渋谷の彼
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最終回-オリンピックのためにTVを買った読書好きな彼

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