アーティスティックスイミング井村雅代HC「1年後もこの8人で」たくましく成長中 (2020年5月30日)|BIGLOBEニュース - BIGLOBEニュース
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アーティスティックスイミング(AS)東京五輪代表の井村雅代ヘッドコーチ(HC、69)がこのほど、スポーツ報知の電話インタビューに応じた。新型コロナウイルス感染拡大で拠点とするプールが使用できなくなり、限られた環境下での練習が続いた。過去に阪神大震災なども経験してきた名将は、教え子たちとともに、この苦境をどう克服しようとしているのか。その思いを聞いた。(取材・構成=太田 倫)
井村HC率いるマーメイドジャパンもまた、コロナという未知の試練に直面していた。主将の乾友紀子ら代表選手の多くが拠点とする大阪は、21日にようやく緊急事態宣言が解除されたばかり。井村ASクラブの選手が普段使う門真市の東和薬品ラクタブドームも、4月の宣言発令以降は閉館された。練習方法を模索する毎日の中、選手はたくましく過ごしてきた。
「彼女たちはみな明るいですよ。今までと違う環境でも、面白がってやっている。私もそれを見てエネルギーをもらっています」
五輪延期を受け、チームは3月31日に一度解散。東京を拠点とする塚本、柳沢以外の6選手は大阪で練習を継続することになった。移動による感染リスクを抑えるため、実家が滋賀にある乾のような選手は府内に部屋を借りて生活してきた。選手は公共交通機関も使わず、部屋と練習場所の往復だけ。井村HCや父母が協力して車で送迎し、食料品の買い出しも周囲の協力でまかなう。練習以外の外出は一切、控えさせた。ただ、緊急事態宣言下で、練習場所の確保は困難を極めた。
「私はもともと細かく計画を立てる人なんですよ。ところが、4月だけでも何回、練習場所が急きょ変わったか…。でも、そんなこと考えたら裏切られた気持ちになるから、考えないようにしてます。まず今日を一生懸命生きて、あしたのことだけ考える。あさっては知らん、と。変わったらそこで考えよう、と」
教え子たちには「今だからこそ楽しもう」と声をかけた。水に入る機会は限られる。本来なら水深は3メートル必要だが、わずか90センチのプールで練習したこともある。その分、個々に細かな課題に向き合わせた。五輪用プログラムに取り入れた空手の練習や、陸上でのトレーニングにも時間をかける。逆立ちして呼吸を止め、音楽に合わせて足を動かす。そうやって、実際の演技に近づける工夫もする。
「今は練習時間は7時間くらい。運動能力を落とさず、技術を高める。中でも大事なのは、小さくても課題を見つけさせること。違った環境の中で見えなかったものが見えて、できなかった練習ができる。いいことですよ」
3月24日に東京五輪の延期が、同30日には来年7月23日開幕という日程が決まった。ASチームは当時東京・北区の国立スポーツ科学センター(JISS)で合宿中。多くの情報が錯綜(さくそう)していたが、教え子をこう言って励ました。
「いろいろ情報があるけど、少なくとも私のところに入る情報が一番速くて正確や。入った情報は必ず言ってあげるから、噂(うわさ)で一喜一憂したらあかん」
少なからず動揺が見て取れた選手たちとは毎日のようにミーティングを開き、個別に面談した。
「毎日顔見て、話して。苦しいとき、人は寄り添うことが大事やから」
五輪や聖火リレーの歴史を教え込んだ。「平和の祭典」としての意義、ありがたみを言って聞かせ、開催が厳しいという現実を伝えた。延期が決まった後、この8人で新・東京五輪に挑む意思を伝えた。内部からは再選考の意見も出たが、信念を通した。一方で、選手には覚悟を問うた。
「1年後もこの8人でいこう。それが一番強いチームになるはず。私はそう信じている。あなたたちも受けて立ちなさい」
まだ未完成のチーム。それゆえに可能性を感じていた。一人一人、五輪へ向かう意思を確認した。
「去年の世界選手権でデュエットもチームもメダルを逃して、その5日後から再スタートしました。阿波おどりに連れていってお祭りを体感させたり、空手もガンガンやらせて、大会も見に行った。本当にいろいろなことをやってきた。もし新たに選考会をやったら、技術だけなら強い選手もいるかもしれない。でも、チームってそんなものではない。今まで積み上げてきたものがあるからね。個人個人に五輪への思いがあるなら、一番強いチームができるという確信がありました」
再出発にあたり「今だからこそ、ASを楽しもう」と声をかけた教え子たちは、井村HCも驚く行動に出た。
「JISSの練習場をみんなで掃除し始めたんですよ。いいとこあるな、と思ってね。最初は決まったところだけピカピカにしていたんだけど、誰かが窓ガラスもふくようになって。きれいにしたら外も見えるやん、と。何かいいじゃないですか。義務じゃなくて楽しそうにやってたので、黙って見ていましたけどね」
自身も指導者人生で、幾度となく試練に見舞われてきた。1995年に阪神大震災を経験。中国代表を指揮していた2008年には、四川大地震も起きた。
「みんなが苦しい時は優しくなることです。天災があったら、このままで世界は終わるはずはない、必ずよくなる、と信じることです。ただ、震災や地震は復興が目に見えますよね。今回は見えないから、地震のときよりももっと厳しいかもしれない。見えない敵と闘うのはキツいです。地球上で誰も経験していないことですから。でも、人間は賢いと信じてるし、コロナに勝つことを信じてます」
全員そろった練習はもう少し先になりそうだが、「大阪組」6人と「東京組」2人は練習の動画を共有し、コミュニケーションを絶やしていない。打倒ロシア、中国、ウクライナ。目標はブレるどころか一層クリアになった。
「進化するための時間をいただけたと思っています。2020年の五輪ではこういう演技をさせたい、と思っていたけど、延期になったらさらに高いレベルを求めます。選手に『分かっているよな』と言ったら『分かってます』と返ってきましたね」
1年先へと遠ざかったゴールへの道のりを、登山に例えた。
「山に登るときは、上を見ていたら、いつか頂上には着く。回り道を通れば、直進していては気づかないきれいな景色や、きれいな花に会えることもある。そこから得るものが、きっと彼女たちの引き出しになってくれると思っています」
◆井村 雅代(いむら・まさよ)1950年8月16日、大阪市生野区生まれ。69歳。生野高から天理大卒。現役時代は全日本選手権で2度優勝。大阪市内の中学校の保健体育教諭を経て、85年に井村シンクロ(現AS)クラブを創設。78年から日本代表コーチを務め、84〜2004年で五輪6大会連続メダル。07年1月に中国代表HCに就任し、08年北京、12年ロンドン五輪で連続メダル。14年に日本代表に復帰。趣味は演劇鑑賞で、ワインが好き。
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May 30, 2020 at 09:00AM
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