コロナ閉塞で「心の清涼剤」 朝ドラ『スカーレット』でグッとくる“マスクのラブシーン”(ネタバレ注意)(水島宏明) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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朝ドラはリアルタイムで社会を生きる人々が、実際の出来事を思い起こしてながら視聴する作品である。
今の日本では、連日、新型コロナウィルスの感染の広がりや株価の暴落など経済的には" コロナ不況"の様相を呈している。
社会全体の「先行き」や自分自身の「今度」を考えれば気が重くなる。
そういう状況でこそ、心に清涼剤がほしい。
そう感じるのは筆者だけではないだろう。実態が重苦しいものになればなるほど、人はフィクションの世界に気持ちを投入させたくなってしまう。
『スカーレット』で白血病の武志に重なる「いま大変な人たち」
朝ドラ『スカーレット』は主人公の川原喜美子(戸田恵梨香)が女性陶芸家として成功し、離婚して家を出ていった元夫の八郎とも良好な関係が戻ってきたところに息子の武志(伊藤健太郎)の体調が思わしくなくなる。
武志は慢性骨髄性白血病と診断されて「余命3年から5年」という告知を受ける。
入院した武志を周囲がいかに支えるかというのがこれからの見どころだ。
朝ドラの前後のニュースや同じ時間帯にされる他局の番組が「新型コロナ」の報道一色だからだろうか。
筆者は治療の可能性はごくわずかという武志の現状が、どうしても新型コロナで大変な状況にある人たちのことが重なって見える。
筆者は白血病などの病棟に入院した経験があったことから、この病気がウィルス感染が命取りになる病気で患者との面会にも手洗い消毒やマスクは不可欠で神経質にならなければならないことを知っていた。それだけに余計に感情移入してしまうのかもしれない。
『スカーレット』が描いた初々しいラブシーン
ドラマでは伊藤健太郎が演じる武志に対してほのかな恋心を寄せている同じ職場の女性がいる。
松田るかが演じる石井真奈だ。
3月14日(土)の138回。「揺るぎない強さ」と題された1週間の最後の放送回だ。
入院する武志を見舞いに来た真奈とのやりとりの描写が、ドラマとしてちょっと素敵な“ラブシーン”だったので紹介したい。
【以下、ネタバレ注意】
武志は自分に好意を抱いてくれる真奈に対して、自分が白血病であるということを伝えていない。
職場には「検査入院」ということだけ伝えてあった。
入院してベッドに横たわる武志も、見舞いに来た真奈もウィルス感染防止のため、マスクをしている。
ベッド脇のイスに腰掛けた真奈は話しをせずに自分のバッグからメモ用紙を取り出して文字を書いて武志に示す。
(真奈のメモ)
[大丈夫?]
それを見て思わず吹き出す武志。笑いながら答える。
(武志)
「そんなん、書いて聞かんでも大丈夫やって・・・。
熱は微熱やし」
そう話す武志を見つめていた真奈は、少し考えるような表情で再びメモ用紙に文字を綴る。
その後で武志の顔の前に掲げて見せる。
若い女性特有の丸っこい書体で書かれた文字を、十分な間を空けて示した。
(真奈のメモ)
[逢いたかった]
この文字のクローズアップからカメラはマスクをしている真奈の目に動いた。
見つめる真奈の目のクローズアップ。
カットが変わってそれを見つめる武志の目。
この後、武志は尋ねる。
(武志)
「なあ、どこまで病気のこと聞いたん?
くわしく聞いたん?」
首を横に振る真奈。
(武志)
「言うとくな・・・」
首を縦に振ってうなずく真奈。
(武志)
「白血病や。
特効薬が見つからん限り、治すのは難しい病気や・・・」
そう言ってあきらめたように笑う武志に、真奈はもう一度、考えるような表情でメモに何かを書く。
それを武志の前に掲げ、武志も真剣な眼差しでわかったというふうにうなずく。
メモに書かれた言葉は明かされない。
その前に、真奈は武志の手に自分の手を重ねる。
初めて手を触れあった二人。ぎこちない仕草で手を握り合っている。マスクをしている真奈がはにかんでいることがわかる。
その映像の後で、初めて、真奈が書いたメモの文字が画面に映し出される。
(真奈のメモ)
[手 つないでもいい?]
美しいラブシーンだった。
心にささる目と文字の演技。
新型コロナで閉塞感だらけの日本社会で、どれだけの視聴者が励まされたことだろうか。
今朝の「スカーレット」の見て、筆者がまっさきに思い出したドラマがある。
2013年放送の朝ドラ「あまちゃん」だ。
「あまちゃん」は東日本大震災から2年後に被災地・岩手が物語の舞台だ。
ドラマの中で東日本大震災の発生が刻々と迫る中、震災をどのように描くのかが注目された。
それは見事というほかない描き方だった。
心を動かされた筆者も当時、ヤフーニュース(個人)に記事を書いている。
筆者はこのように記事を書いた。
当時、筆者が感じたのと同じような感想をテレビドラマに詳しい碓井広義氏も最近書いている。
東日本大震災の後で日本社会を「重苦しさ」が覆っていた状況の中で、制作者が「想像力」を駆使し、「創造力」を発揮することの大切さを碓井氏は強調している。
筆者もまったく同感である。「想像力」と「創造力」は連動するのだ。それはドラマに限らない。ノンフィションであるドキュメンタリーの世界でも当てはまる。
『スカーレット』も3月いっぱいで終了するため、ドラマは今後クライマックスを迎える。
視聴者が閉塞する社会状況を横目にしながら、伊藤健太郎が演じる武志の命がどうなるのか、その恋の行方はどうなっていくのか、ハラハラしながら見守っていくしかない。
せめてこの閉塞した状況で、「人が生きる」ことの“すがすがしさ”や“美しさ”を伝えるエンディングになってほしい。
朝ドラのファンの1人としてそう願っている。
"それを見て" - Google ニュース
March 14, 2020 at 10:02AM
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