タレントがTVに消費されない時代に “経年劣化”叫ばれるバラエティとの向き合い方:紀伊民報AGARA - 紀伊民報

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 1月30日放送『アメトーーク!』(テレビ朝日系)に、霜降り明星、EXIT、宮下草薙、三四郎、ダイアンら、昨年ブレイクした人気芸人5組が登場。テーマは「今年が大事芸人2020」で、SNSでは「神回」の声が挙がるなど大絶賛の回となった。番組では、お笑い第7世代と呼ばれる宮下草薙とEXITが今のお笑い番組に対する不満や本音を吐露し、出演者を冷や冷やさせる一幕も。芸人と番組の“本音”が見え隠れしたからか、同企画は、業界からの反響も大きかった。この「神回」から経年劣化を叫ばれるバラエティのあり方を紐解く。

【写真】テレビで見ない日はない、EXIT、宮下草薙、四千頭身…お笑い第七世代そろい踏み

■『アメトーーク!』フォーマットを自ら全否定するエポックさ

 『アメトーーク!』は、昨今のお笑い番組のフォーマットを作ってきたといっても過言ではない番組。その番組で、これまでのフォーマットを否定してしまうようなコメントが放送されたことに、視聴者はもちろん、業界からも大きな反響があったようだ。

 霜降り明星のせいやが提唱する「お笑い第七世代」というくくりはテレビでも昨今よく見られる括りであり、この中に入ることで、お笑いファンだけではなくお茶の間で認知度が上がった芸人がいる印象も。しかしなかには、自身のお笑いにプライドがあることから一括りに否定的な芸人もいるようだ。実際、同放送でも、宮下草薙の宮下は「こうやって一つの括りにされることで…」と不満爆発していた。

 このほか同放送では、EXIT兼近が「収録時間がバカみてぇに長ぇ上に、信じられないくらい(ひな壇に)座らされて、ワケ分かんない人たちの話とか聞いて使われるのは一瞬」という“コスパの悪さ”を説明。他にも「若手はワイプ芸が大事とか言うじゃないですか!?」「別撮りでいいんですよ」などワイプ文化についてもキレッキレのヒールぶりを発揮していた。これにSNSでは絶賛の声が挙がった(一方では「本音を言っちゃう俺カッコいいって思ってるのかな」など批判の声も)。

「これらは、昨今のバラエティの定番についてばかり。「『アメトーーク!』は定番の多くを創り出してきた番組ですが、その功績をも「全否定」するコメントを番組がカットしなかったのはさすが」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「潔さの現れであり、トークバラエティの経年劣化を番組自体が感じているからのディレクションかもしれない。これには『アメトーーク!』でブレイクしてきた芸人(千鳥やMCの蛍原、冠番組「霜降りバラエティ」のある霜降りも)らも放送内で困惑・苦笑い(笑)。それを見ても、今後お笑い界に新たな流れが登場するのでは…と予感させた、自己批判的・メタ色の強い回でした」(衣輪氏)。

■新世代の芸人はどこを舞台に戦っていくか

 同番組ではEXITりんたろー。が、相方の兼近が「何か正直、今一番YouTubeが楽しくなっちゃって」と発言しているとし、「兼近からYouTubeこんな企画どうですかって言われるんですけど。本当はいい(面白い)って思ってるけど、このままじゃ(兼近が)YouTube行っちゃうから(わざと)あんまりだねって言っちゃう」と暴露していた。

 実際、『EXIT Charannel』の登録者数は41万5,000人と決して少なくない。ほか「第七世代」では霜降りも『しもふりチューブ』を開設しており、登録者数は55万4,000人。「とくに若手は活躍の場をテレビやラジオ、ライブだけとは考えておらず、YouTubeにも面白みを感じているふしもある」と先述の衣輪氏。これには“先駆者たちの活躍”がある。

 登録者数が170万人のカジサックをはじめとして、昨今話題になった『エガちゃんねる』はそこに肉薄する158万人。現在8本の動画しかないと考えると、これはとんでもないスピードだ。このほか賛否両論の宮迫博之の『宮迫ですッ!』もなんだかんだで59万2,000人。マニア人気のあるロバート秋山の『クリエイターズ・ファイル』は53万1,000。またテレビではほとんど姿を見ることがなくなった宇宙海賊ゴー☆ジャスは『ゴージャス動画』でコアな人気を誇っており、42万1,000人。広告収入も入ることも考えれば「決してテレビやラジオ、ライブだけじゃなくても良い」と考えるのは当然のことだろう(すべて2月18日現在)。

 ほかにもSNS(Twitter、TikTokなど)も重要な戦場になっている様子。衣輪氏は「ネットなどに抵抗がなければ、テレビにいいように使われたくないと自身の価値を見極めることも可能。そして実際その流れは起き始めている」と分析する。どこか年功序列、縦社会があったお笑い界だったが、今までなかった流れ・意見が出てきているのだという。

 「テレビに出られないからYouTubeというネガティブな認識は今も根強いですが、YouTubeにお笑い以外の可能性が広がっていることでポジティブにとらえている若手の芸人は実は驚くほど多い。そもそもYouTubeは“目標”は何でもいい。形にとらわれなくていいのです。オリラジ中田さんの『中田敦彦のYouTube大学』では中田さんの新たな可能性が見られましたし、YouTube以外ではキングコング西野さんはネットサロンやクラウドファンディングを利用してクリエイターとしての活躍もしています。テレビ出身者以外で話せば例えば、編集がうまいフィッシャーズのシルクさんなら映画への可能性も広がっている」

 「また、昨今YouTubeでライブ配信をしているよゐこさんにお話を聞いたところ、よゐこさんはYouTubeで人気になって、そこからテレビに呼ばれる流れを目標にしているそう。イメージ的には音楽番組での、ライブ会場からの中継ですね。こうしたさまざまな流れが生まれてくる今後、YouTubeやTikTokで人気になり、そこからテレビという“オールスター戦”に呼ばれる人も次々と現れるでしょう」(同氏)

■TVに消費されるからこそ生まれる「一発屋」の連鎖

 昨年の『M-1グランプリ』(同系)でぺこぱの新たなツッコミ「全肯定」が注目されるなど、お笑いには今まで以上の多様性の波が押し寄せているように感じる。また昨今は“仲良し”お笑いが人気だったが、今回の放送で悪態をつくヒールのような兼近が目立ったように、ビートたけし、ダウンタウンに代表される不満・毒の笑いが再び復興する予感もある。様々な方向性が乱立する今だからこそ、芸人がどうテレビと折り合いをつけ、もちつもたれつでやってくのか、選択を迫られているようにも思える。

 テレビに消費されるお笑いの一つが「一発屋」だ。同じネタを何度もやると、認知度は上がるが、飽きられ消費され、芸人としては消えてしまう。そんな姿を何組も見てきた第七世代が、危機感を感じていてもおかしくない。「悪しき負の連鎖(一発屋)を繰り返さないようにする模索は若手に限らず。その模索にYouTubeをはじめとするインターネットは相性が良い」(衣輪氏)。

 ただ、単に流れに乗るだけでは潰されてしまう。芸人自身がテレビに消費されず、自己プロデュースをし、生き残る術を見つけていかなければならない。テレビだけにとらわれないフィールド=YouTube、ラジオなど自分たちが消費されない場を自分で見つける時代に入っている。今回の放送はそういった意味でも視聴者、業界などバラエティ番組に対する起爆剤にもなった。繰り返しになるが、それを17年目に入った『アメトーーク!』が放送したことに大きな意味がある。

(文/中野ナガ)

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