『女王の教室』“いじめっ子”伊藤沙莉 芸歴17年目にして飛躍のきっかけは、天海祐希の“震える”一言:紀伊民報AGARA - 紀伊民報

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 9歳で子役デビューし、去年はドラマ6本、映画5本と年々活躍の場を広げている伊藤沙莉。11歳で出演した『女王の教室』(05年 日本テレビ系)では、いじめっ子役で強烈なインパクトを残し、その後何年もいじめっ子役しかこなくなった。一時はオーディションに落ち続け、“ニート”かと思うほど仕事がなく、女優を続けることに思い悩んだ時期もあったという。役によっては邪魔になるハスキー声もかつてはコンプレックスだったというが、現在では声優業でも注目を浴びている。伊藤がコンプレックスを乗り越え、“いじめっ子”を脱却できた理由とは。

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■絶賛アニメ声優は“エゴサ”が原動力に、ハスキーコンプレックスを武器に昇華

――現在放送中のテレビアニメ『映像研には手を出すな!』(NHK)で伊藤さんが演じている、アニメが大好きな主人公・浅草みどり。「浅草氏の声を伊藤沙莉さんにしようって言った人天才」「この人以外は考えられない」、「当て書きにしか思えん」と放送のたびにSNSでは絶賛の嵐ですが、ご自身でも反響を感じてらっしゃいますか?

【伊藤沙莉】緊張して、1話からリアルタイムでエゴサをしていたのですが、みなさんがどんどん感想を呟いてくださって「こんなにたくさんの人が、この時間に起きて見てくれてるんだ!」って、ビックリしました。楽しみにしてくださってる方がたくさんいることがわかって、「この人達を裏切れない!」と改めて身が引き締まる思いでしたし、力になりました。

――特に印象に残っている感想はありますか?

【伊藤沙莉】いろいろありましたけど、「浅草氏の声がかわいくなくてすごくいい」っていう感想は、自虐でも何でもなくてすごく嬉しかったですね。あとは自分が出ていなくても、自分が好きなシーンを褒めてくださるコメントを見つけた時も、「一緒だ!」って嬉しくなります。

――もともと、声優のお仕事に興味があったのでしょうか?

【伊藤沙莉】ずっとやりたかったので、決まった時はすごく嬉しかったですね。同時に、大きな作品すぎて怖気付く気持ちもあって。最初の打ち合わせの時は、ほとんどスタッフさんの目が見れず“浅草氏”(コミュニケーションが苦手な役)状態でした(笑)。

――同じ映像研のメンバーを演じる田村睦心さんと松岡美里さんは、プロの声優さんですよね。

【伊藤沙莉】足だけは引っ張りたくないという思いが大きかったです。今回私はオーディションを受けていないので、門を1つくぐらずにその場に立たせて頂けるということは、逆に言うと人一倍がんばらないとここにいてはいけない人間になってしまうから、とにかく置いて行かれないようにしようという思いです。

――最近ではオールナイトニッポンにも初出演されるなど、声を武器に活躍されていますが、元々はハスキーボイスがコンプレックスだったんだとか?

【伊藤沙莉】可愛らしい役を演じる上で邪魔になったり、少し強く言えば怒っているように聞こえたり、コンプレックスでした。でも先輩の役者さんに、「説得力がある声をしていて、とても素敵よ」って褒めていただいたことがあるんです。「どんなに欲しくても手に入るものじゃないから、大事にしなさい」と言ってもらえたのはかなり大きかったですね。同じことを、この前のドラマでリリー・フランキーさんにも言っていただいて。声の重みを説いてくれる方がたくさんいたので、受け入れられるようになったんだと思います。

■「一生続くかと思った」“いじめっ子”からの脱却、『全裸監督』はアドリブ星人の集まり

――『女王の教室』以降、長らくいじめっ子役ばかり続きましたが、イメージが固まってしまうことへの葛藤はありましたか?

【伊藤沙莉】すごくありましたね。11歳から私のいじめっ子人生が始まって(笑)。そこからずっとだったので、「これ一生続くのかな?」と思ったし、お芝居をやらせていただけている以上は、いろんな役をやってみたかったので不安も大きかったです。

――子役時代は、オーディションを受けて役が決まる感じだったんですよね?

【伊藤沙莉】そうですね。オーディションを受けてレギュラーが決まると、その期間が終わるのがすごく怖かったです。終わったらまたオーディション生活が待ってますから。子どもながらよくそういう悩みをずっと抱えて生きてたなと思いますし、19歳の時は「ニートなのかな」と思うぐらいお仕事がなかったです。

――やめたいと思ったことはなかったのでしょうか?

【伊藤沙莉】“やめたい”と思ったことはなかったんですけど、“やめなきゃいけないのかな”と悩んだことはありました。昔、ある番組で女優さんが「続けることが大事」とおっしゃっていて。そういう時って全然響かないんですよね。でもやっぱり今となっては、私も辞めずに続けてきたからこそ出会えた役やお仕事があると思っています。

――続けることの大切さを実感したということでしょうか?

【伊藤沙莉】途中で路線変更をしたとか、特に何かをしたわけじゃないですし、どこに何が転がってるか本当に分からないんですよね。続けているうちにバチーンと自分に合う役が来ると、それ以降の人生って大きく変わると思うので。だから、私と同じように“やめなきゃいけないのかな”と思っている人には、ぜひやめないで欲しいです。

――伊藤さんにとっては、’17年に出演された朝の連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)も、転機の一つになったのではないでしょうか。

【伊藤沙莉】大きかったですね。それまでは学園ドラマが多かったので、知ってくださっているのは学生の方々が多くて。でも、『ひよっこ』への出演で、一気に年齢層が上がりました。それによって、求められる役の年齢層の幅も広がったと思います。

――去年は『全裸監督』(Netflix)も大きな話題になりました。ご自身にとってはどんな作品でしたか?

【伊藤沙莉】山田孝之さんを始め、満島真之介さんや玉山鉄二さん、柄本時生さん、後藤剛範さん…、みなさんおもしろいことが好きな方たちなので、その一員になれたことはすごく勉強になりました。真剣に取り組んでいるんですけど、目を離すとすぐにふざけるんです(笑)。常に遊び心を忘れないその姿がすごくかっこよくて、大きな刺激を受けましたね。

――伊藤さんも影響を受けて、仕掛けられたりも?

【伊藤沙莉】いやもう、みなさんアドリブ星人なので、仕掛ける隙間がないんですよ!(笑)。言われたことにアドリブで返すぐらいですね。言われて返すのは好きなんですけど、あまり自分から発するタイプではないので。でも、本当にいけないことですけど、よーく見ると私各所で肩震えて笑ってしまってます(笑)。

■忘れられない天海祐希からの言葉「必ずどこかで誰かが見ているから、そのままでいて」

――過去には「容姿だけで視界に入れてもらえないのが嫌だった」「きれいじゃないとメインを張って立てないと思っていた」と明かされていますよね。

【伊藤沙莉】あはは!ありましたね。傷つくってことはそこ(容姿)で勝負してたんだよなと、私はそこじゃないよな、と今となっては思います。もちろん過去にそういうことを思い知ったことが今につながっているとは思います。私がやりたいのはお芝居だし、誰かに響けばいいんだと。それこそ、コンプレックスだった声も、大事にするようにもなりました。

――今思う、“伊藤沙莉らしさ”とは何でしょうか?

【伊藤沙莉】「綺麗に見えたい」とかはさらさら捨てているので、自分に制限をかけず、守りに入らないようにしてるのは、意外と強みなのかなと思います。たとえば変顔にしても全力でやりますし(笑)。求められたことは全力で受けて応えたい。ちょっとテイストは違うんですけど、お仕事で脱いだ時も同じ気持ちでした。

――映画『獣道』のセクシー女優、『タイトル、拒絶』ではデリヘル嬢を演じるなど、体当たりの演技が話題となりましたよね。

【伊藤沙莉】シーンの意味を聞いたとき、しっかり答えてくださる監督だったので、何の恥ずかしさも躊躇もありませんでした。守るべきところは守りますけど、作品において必要なことであれば迷いなくやります。

――どんな時でも全力で向き合うその姿勢が、誰もまねできない“伊藤さんらしさ”を生んでいるのかもしれませんね。

【伊藤沙莉】『女王の教室』で天海祐希さんとご一緒した時に忘れられない言葉があって。撮影後に、あの怖い真矢先生に呼ばれたんです。絶対怒られる…!と思って震えていたんですけど、当時11歳だった私に、「あなたは教室の隅でもカメラを映っていない時でも本当に気を抜かないし、手を抜かないね」とめちゃくちゃ褒めてくださったんです。「誰も見てないようなところで、一生懸命表情を作ったり動いたりしていて、私はいつもそれを見てる。私は宝塚っていうところにいたんだけど、端っこで踊らなきゃいけない時もあって、“私のことなんて誰も見てない”って思うこともやっぱりあるのよね。でも、必ずどこかで誰かが見ているから。絶対にそのままでいて。これ以上も以下もないから」と。

――それをずっと覚えていて、伊藤さんの原点になっているのですね。

【伊藤沙莉】その時はまだ子どもだったのでちゃんと深い意味までわからず、ただ「はい!」って元気よく答えたんですけど(笑)、未だに忘れられないですね。当時は無意識でやっていたのですが、それを見て褒めてくれた方がいたのはすごく幸せなことだったと思います。その後も学園ドラマなど、メインではない役柄が多かったのですが、いつもその言葉は忘れないでいました。どの立ち位置でも全力でやることは、今でも大切にしています。

――若くして芸歴17年、天海さんをはじめ錚々たる俳優陣とご共演されてきましたが、改めてどのような役者を目指したいですか。

【伊藤沙莉】本当に恐れ多いんですけど、樹木希林さんと共演するのがずっと夢だったので、叶わなくなってしまったことがすごく残念で。訃報を聞いたときは、1人で泣きました。だから今は、この先私がこの世からいなくなった時、「共演したかった」とこれほど悔しがる若者がいるぐらいの役者になれたらいいなと思います。何の技術を得て、とかはよくわからないので、そういう存在になれたら幸せですね。

 学校では「売れない子役」というあだ名がつき、“いじめっ子”のイメージから私生活でもしてもいないいじめの犯人に疑われ、オーディションでは認められない日々が続き、子どもながらに人一倍悔しい思いをしてきた。そんな中、有村架純、土屋太鳳、武井咲…、同世代で後輩ながらメインに立つ女優が次々と出てくる。「容姿だけで視界に入れてもらえなかった」と語る伊藤は、どうにか注目してもらおうと悪目立ちする癖がつき、それが重荷になっていることもあったという。

 しかし、10年以上もの間、天海祐希からの“金言”を胸に、たとえ隅っこでも、一瞬でも、全力で役に向き合ってきた彼女は、容姿だけではない武器や実力を着実に身に着けた。すでに人気を確立しつつあった2年前にも、有村架純・松本潤主演の映画『ナラタージュ』で、伊藤が1秒足らずのシーンだったにもかかわらず出演依頼を受けたというエピソードからも、その信念がうかがえる。

 彼女の憧れ、樹木希林さんも生前こんな言葉を残している。「セリフがあまりない役をずっとやってきたから、自分で存在感を示していくしかなかった」(『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文春新書)より)伊藤も同様、長年メインではない役を重ねてきたからこそ、独自の存在感が確立されたのであろう。いまやどのポジションでも、作品全体に“伊藤沙莉”というスパイスを与えられる役者となった彼女の、今後の更なる活躍に期待したい。

(文・辻内史佳)

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